たとえば私の場合は25歳のときに父が亡くなって、12年経ってようやく心身ともに整理がついた。59歳で急性心不全によりポックリ死んだ。寺の住職で幼稚園の園長で、美術家で大学講師で愛人持ちだった父の急死に、全員、超! びっくりした!
私はというと統合失調症と鬱の症状がピークに達していたところで、本山(仏教宗派の本部で、企業で言う本社)から電話を受けた母から「お父さんもうだめだって、冷たくなってるって」と報されて、頭の中で血の引く音を聞いた。本当にサーッという、砂が落ちるような音がするのだ。「父がのこした音」がそれだ。意外と声は覚えていなかったりする。
本作のタイトルの後につく言葉は「いなくなったあのひとが、のこしてくれたものがたり。」で、まっさきに私が思い出すのは、あの冷たい大量の砂が落ちる音を聞いた前後の情景だ。その後、家族関係は最悪になり、令和に入ってから彼らには会っていない。ものすごい裕福だったので(イヤミですか? スミマセーン)相続で争うことがなかった。ただ私はその後、数百万円を持ち逃げされる事態に遭ったりしたのですが(ザマアミロですね)。
『泥酔して死ぬる』は奇怪な話で途中から自分の好きなハードテクノがBGMで流れて「ここでハードテクノ流れる? 普通」とキョトンとしてたらクレジットで“音楽:suzukiski”とあって爆笑、ここでsuzukiskiさんかあ、とヘラヘラしてしまったが果たして笑えるかというと笑えず、シリアスな気分を通り越して落ち込んだ……。
死んだ人が遺したものは大事に、債務を残して逃げた人は追い詰め、家に帰っちゃった人が忘れたものは届けてあげたりと、この場にい続ける自分がやることは多くて目が回る。
目が回るのは気持ちがいいが度を過ぎると倒れる。倒れない程度に加減しろだなんてのは射精寸前でパンツを上げて眠れという話でありますし、倒れた相手に起き上がれというのもはなはだ乱暴だ。話がそれました。観賞後にここまでぐったりする作品がゴコイチで入った短編集の上映が始まります、観客のみな様、張り切ってどうぞ!
余談。『八十八ケ所巡礼』にて巡礼者に、なぜお遍路をしているのかと訊いてはならないとのナレーションがある。前述の通り私は高校を卒業後、8年間真言宗の坊主をしていた。いろいろあって宗旨替えし、還俗した(本当にいろいろあって……)。
この問いには「わかりきっていることを、わざわざ問うのは残酷ですよ」と私は答える。
-ユーシン (精神障害者2級・お笑い芸人)
コメント内で出てくる家族のお話がまんま映画になりそうな強烈さ…。
来月は岡山メルパにて上映です!絶賛チラシ配布中!!メルパのエントランスでおすすめしてもらってます。